労働トラブルの事例集

インターネットの普及、ゆとり世代との感覚の違い、労働者の権利意識の高揚で、かつては考えられなかった要求をする従業員が増えました。

しかしながら、労働トラブルの多くは就業規則の規定内容を工夫することで会社のダメージを最小化することができます。

ここでは、社員トラブルの事例を紹介しながら、その対処例を考えていきます。


①試用期間中の解雇

社員を中途採用したところ、営業成績が思わしくないため解雇することにしました。ところが、本人は「精一杯働いた。試用期間中とはいえ、これは不当解雇だ」と主張し、労働基準監督署に訴えると言っています。

 

ポイント

  • 試用期間とは社員の適格性を判断する期間ですので、会社が不適格と認めた者を解雇するのはやむおえないことです。ただし、現実に解雇が認められるかというの、これは非常に微妙です。
  • 「能力不足」は解雇の理由になりません。なぜなら、能力不足は会社の教育・指導にも責任があると判断されるからです。
  • 解雇が認められるのは、特定能力を必要とすることを条件に募集し、その者がその能力を有しないと判断された場合、もしくは上司に極めて反抗的だったり、服務規律違反、欠勤が多く会社の秩序を乱す場合です。その場合、本採用しても会社にマイナスを与えるだけですので、解雇が認められます。

事前の対策

社員が納得して辞めるのであれば何のトラブルも発生しません。社員の納得を得るには…

  • 就業規則で試用期間中の解雇事由を定めておくことです。
  • 労働契約を結ぶときに、どのような場合に本採用が拒否されるのかを説明しておくことが大切です。

②試用期間中の社員が一ヵ月も休業

従業員を雇い入れたのですが、入社後すぐに病気療養という理由から、一ヵ月近くも休まれてしまいました。三ヵ月の試用期間はすでに過ぎたのですが、本人の能力がまだつかみきれず、本採用を悩んでいます。

 

ポイント

  • 本人の長期休暇により社員の適格性の判断が十分に行なえない場合、就業規則の規定をもとに「試用期間の延長」をすることができます。

事前の対策

  • 試用期間は、原則として入社時に社員に言い渡した期間でなければなりませんが、就業規則に「試用期間の延長」についての記載があれば、延長することが可能になります。就業規則に試用期間中の延長・短縮の規定を盛り込んでおくことが重要になります。

③従業員が休職を繰り返す

社員が三ヵ月の病気療養から戻ってきたと思ったら、また同じ理由で休職してしまいました。その後復職しても病欠が多く、会社運営にも影響が出ています。

 

ポイント

  • 医師の診断書を提出させ、社員の病気が医師の診断に基づくものか確認します。
  • 会社を辞めてしっかりと療養したほうが良いのか、再度休職させてきちんと治療してから復職したほうがいいのか、本人とよく話し合います。「うつ病」を患う人の場合、会社が社員を精神的に追い込むと、自殺に発展することもあるので、このような時は、医師を介して話す方法もあります。

事前の対策

  • 就業規則に「休職制度」を導入することです。法律には定めがないので、会社が任意でルールを決められます。

休職制度を設けるときの留意点

  1. 休職期間を具体的に規定する
  2. 休職を繰り返したときは、前後の期間を算定できるようにする
  3. 休職期間中も定期的に連絡が取れるようにする
  4. 本人と連絡が取れない場合の対策を決めておく
  5. 復職の条件と手続きを決めておく
  6. 休職期間が満了しても復職できないときは自動退職とする

④従業員と連絡が取れなくなった

社員が何日も無断欠勤し、電話をしても連絡が取れません。服務規律違反として解雇できるでしょうか。

 

ポイント

  • 社員を解雇するためには法律上、少なくとも30日前の予告が必要です。
  • 連絡が取れない場合、裁判所の掲示板に掲示(公示送達)することで解雇予告することができます。

しかし、どちらも時間と手間がかかるので現実的ではありません。事前の対策をしておくことが重要になります。

事前の対策

  • 就業規則の退職の項目に「無断欠勤が連続して30日以上に及んだときは退職とする」という文言を入れておきます。これだけで、社員が無断欠勤して行方不明になった場合、30日後に退職扱いにできます。
  • 退職金制度のある会社は、退職金の不支給事由に「30日以上の無断欠勤」を加えておけば、退職金の支払いも不要です。

⑤茶髪やひげは個人の自由?

取引先と接する営業部員やお客様と接する販売部員に茶髪やあごひげを生やした者がいて、会社のイメージを損ないます。身なりを改善させる手段はありますか?

 

ポイント

  • 社員の身なりが会社として容認できる範囲を超えている場合は、注意・指導を行って当然です。
  • 取引先やお客様からの指摘があったという事実があり、上司が指導しても改善されないのであれば、解雇することができます。しかし、いきなり解雇するのではなく始末書の提出や、出勤停止、書面での警告といった過程を踏むほうが良いでしょう。
  • 上司の個人的な意見ではなく、就業規則の服務規律に照らして指導すること、女性の身なりを指導する際はセクハラと受け止められないようにすることに注意しましょう。

事前の対策

  • 就業規則の服務規律に「服装・身なりは、常に清潔にし、不快感を与えないように留意すること」という文言を入れておくことで、改善されない場合は、正式な規律違反となり、出勤停止などの懲戒に処することができます。

⑥遅刻の常習犯がいる

重要な打ち合わせにも平気で遅刻し、注意しても改善されません。

 

ポイント

  • 常習犯かにかかわりなく、社員が遅刻した場合は働いていない時間の賃金をカットすることができます。
  • 遅刻は社員の勤務態度不良にあたりますから、減給制裁を行うことができます。
  • 会社が何度も注意・指導したことを証明できるもの(遅刻のたびに始末書を書かせる等)があり、「今度遅刻したら解雇する」と予告し、それでも改善されなければ解雇できます。

事前の対策

  • 就業規則に遅刻による減給に関して記載しておきます。
  • 皆勤手当てを設けるのも一つの方法です。皆勤手当てを1万円とし、3回遅刻したら手当てがなくなる、といったものです。

⑦定時になると仕事が残っていてもさっさと帰ってしまう

納期が迫っていて忙しい日でも、定時になると帰ってしまい、その負担がほかの社員に回ってしまっています。残業を拒否する社員に時間外労働を強制することはできないのでしょうか。

 

ポイント

  • 会社が従業員に残業をさせるためには「時間外労働・休日労働に関わる協定書(36協定)」を労働基準監督署に提出していなければなりません。
  • 残業命令が正当なものであれば、残業は拒否できません。

正当なものとは、以下の条件を満たしているものです。

  1. 36協定の範囲内の残業であること。
  2. 時間外労働をさせる業務上の必要性があること。
  3. 残業命令が社員の健康を害さないこと。
  4. 社員の生活設計(家族の保育や病人への配慮)を害さないこと。
  5. 社員が残業できない理由を具体的に述べて拒否した場合、その拒否理由に正当性があるかを考慮していること。

事前の対策

  • 就業規則に「業務上の必要があるときは、時間外・休日労働を命じる」と記載しておきます。
  • 労働契約書に、残業がある旨を明示しておきます。